今日は、スーフィーの寓話をひとつ、私なりにアレンジしてご紹介させていただきます。
その昔、大いなる知識を得て、世界に貢献したいと望む男が、ある導師のもとを訪れました。
すると導師は、こんなことを言います。
「知識を授けるには、代わりに私が必要としているものを受け取る必要があります。今、私は、偉大な仕事を進めている方に捧げるための、小さな絨毯がなくて困っているのです」
そこで男は、絨毯を買うために絨毯屋のところへ行って事情を説明します。
絨緞屋は、こう言いました。
「あんたが欲しがっている知識や、導師の仕事など私には関係ありませんね。それより絨緞を織るのに必要な糸がないのです。糸を持ってきてくれたら、絨緞をお作りしましょう」
男は、仕方なく、糸を紡いでる女のところへ行って訴えました。
「糸を売ってください。私は、その糸を絨緞屋へ持っていき、絨緞を作ってもらい、導師のところへ持って行きます。導師は、その絨緞を偉大な仕事を進めている方に捧げることができるし、私は、知識を授けてもらえるのです」
女は答えます。
「あなたや絨毯屋さんや導師が必要としているもののことはわかります。でも、私だって糸を紡ぐための、山羊の毛がなくて困っているのです」
男は、今度は、山羊の毛を売っている商人を探しますが、その人は山羊を連れて来いと言うし、山羊飼いを訪ねると、山羊が逃げないための柵を作ってくれと頼まれます。
男は、さんざん探し回って、若くて腕のいい大工を見つけだします。
ところが大工は、ろくに話を聞きもしません。
「あんたが知識を欲しがっていることや、他の連中の必要としているものをいくら言われても、オレには興味がないね。誰だって、それぞれ自分が必要としていることがあるのさ。オレはずっと結婚したいと思っているが、なかなか相手がみつからなくて困っている。結婚相手をみつけてくれれば、すぐにでも柵を作ってやろうじゃないか」
男は町中を歩き回ったあげく、ある女性に出会います。
彼女は、あの大工と結婚することを、死ぬほど夢見ている娘を知っているというのです。
ところが、その女性が求めていたことは、「知識」だったのです。
男は、大工に娘を会わせれば柵を作ってもらえ、商人から山羊の毛を手に入れることができ、糸を紡いでもらって絨緞を買うことができ、絨緞を導師に渡せば、その「知識」が手に入ることを、必死で訴えます。
しかし、女性はまったく信じてくれず、「知識」そのものを要求するばかりで、とうとう男の願いを断ってしまったのです。
男は、自分のことだけしか考えない人間たちに失望を感じてしまいました。
せっかく、大いなる知識を得て、世界に貢献することを目指していたのに、そんな値打ちもないのかも知れないという疑いさえ浮かんできます。
そのとき、男は気づきました。
自分だって、結局は同じことをしていたのです。
自分が知識を得ることが最も意味があることだと思っていましたが、よく考えてみれば先ほどの女性だって、真摯に知識を求めていたのでしょう。
大工も、羊飼いも、商人も、糸紡ぎの女も、絨緞屋も、導師も、本当に求めていることがあるし、すべてのことに意味があるはずです。
そんなことを考えながら、ぼんやりと歩いていると、困りきった表情でオロオロしている男性が目に入りました。
男は思わず走りよって、「どうしたのですか?」と尋ねると、男性の娘が、ある大工に恋するあまり重病にかかって命の危機に陥っているというのです。
相手の大工を探し出そうにも、娘は意識も失っていて調べようもないと、その人は弱り果てているのでした。
男は、すぐにあの大工のことだとわかり、急いで大工を娘に会わせるために走り出します。
おかげで、娘の命は助かり、大工は望んでいた理想の結婚相手を得ることになりました。
大工が柵を作ってくれたので山羊飼いは山羊をくれましたし、それで商人から山羊の毛を受け取り、糸を紡いでもらうことができたし、糸を渡すと絨緞屋は、立派な絨緞を織ってくれたのです。
絨緞を導師のところへ持って行くと、導師は笑顔で男に伝えました。
「あなたは、すでに大いなる知識を得たようですね。自分のためではなく、絨緞のために働いたから、絨緞を持ってくることができたのでしょう。それは、本当にすばらしいことなのですよ」
...ずっと探し求めているもの。
それは、思っているよりも近くにあるし、与えることで、はじめて手に入るものなのかも知れませんね。