少し前のことですが、知り合いのお医者さんが、こんなことをおっしゃっていました。
「自分の力で患者を治していると思っているうちは、まだまだ一人前の医者じゃないよ」
たとえば、お医者さんは、骨折をした患者さんに対して、骨を固定してギブスをはめることはできます。
ケガをした人には、消毒して傷口を縫合したり、化膿止めの薬を塗ったりします。
熱がでたら、解熱剤や鎮痛剤を処方したりしますね。
でも、元のように骨がひっついたり、傷がふさがっていくのは、感者さん自身の自己治癒力が働くためで、お医者さんが何かをしたわけではありません。
熱が下がっていくのも、薬が効いたというよりは、身体が自分で良くしていく間、薬が症状を抑えていただけなのだそうです。
お医者さんができるのは、ただ、患者さんの自己治癒力、つまり治ろうとする力がスムーズに働くように、手助けすることだけです。
知り合いのお医者さんが言うには、それを勘違いして、自分の力で治療していると思っていると、もしも、経過が思わしくないときなどには、
「自分の治療のどこが悪かったのだろう」
「何が足りないのだろう。どんな薬を使えばいいのだろうか」
というところへ意識が向いて、必要もないことをしてしまったり、患者さんに余計な不安を与えてしまったりするのだそうです。
ところが、自分は、相手の手助けをしていだけだと自覚しているお医者さんは、なかなか良くならない患者さんがいたとしても、
「どうして、良くなろうとしないのだろう」
「あと何があれば、もっと患者さんの自己治癒力は高まっていくのだろう」
と考え、症状や療法ではなく、患者さんの方へ意識が向くことになります。
もちろん、治療法や使用する薬等に問題点はないかと考えることも大切です
が、患者さん自身に注意を向けてみると、その方の生活スタイルや心理面に改善すべきところあったりと、意外な発見もあったりするということです。
それが、本当の医者の仕事だとおっしゃっていました。
そういえば、カウンセリングをするときにも、いくらこちらがベストの解決策だと思って提案しても、クライアント本人の腑に落ちていなければ、余計なお世話になってしまうという経験が何度かありました。
どう考えても、こうすればうまくいくと思えて、クライアントさんも頭では納得するのですが、本人がどうも実行する気にならなかったり、実行しても続かなかったりしてしまいます。
逆に、ただ話をしているだけなのに、突然、相手が勝手に自分の問題を解決する方法をみつけて、顔が輝くことがあります。
それは、ほんのちょっとしたことだったりして、こちらとしては、首を傾げてしまいそうになることもありますが、結果的には、自分が心から納得できるものの方が、その人にとっては意味があるようです。
私たちが問題を抱えていたり、悩んでいるときも同じことなのかも知れません。
もし、ずっと同じようなことで悩んでいるとしたら、いくら頭で考えて、「こうした方がいい」「こうすべきだ」とわかっていても、あるいは、誰かにアドバイスをもらったとしても、自分自身が心に落ちていなければ、あまり意味がないようです。
その方法が悪いのではありませんし、他にもっといい方法を探した方がいいというわけでもないのでしょう。
解決方法ではなくて、自分自身に意識を向けてみてはいかがでしょうか。
「どうして、もっと良くなろうとしていないのか」
「何がひっかかっているのか」
「あと、なにがあれば幸せになれるのか」
すると、いろいろなことが見えてくるかも知れませんよ。
どれだけ良い薬を飲むよりも、今ここで、自分を楽しんで笑ってみる方が、心と身体には、ずっと効くようですね。