真っ暗な部屋のなかに、たったひとりでいると考えてみてください。
前に歩いて行きたいのですが、先が見えないととても不安です。
手や足でまわりを探ってみますが、何かにぶつかったり、つまづいたりするような気がして、なかなか前に進めません。
手を伸ばせる小さな範囲だけが、自分の世界のすべてのような気がします。
何とか、電灯のスイッチを見つけて明かりをつけてみます。
するとどうでしょう。
さっきまで、とても小さく思えた部屋が、とても広々と感じられます。
そして、障害物も何もない部屋のなかを、自分が恐る恐る歩いていたことに気づき、ちょっと可笑しくなってしまいます。
全く同じ部屋を、明かりがあるだけで、とても安心して歩いていけます。
自分の世界が広がったような気がするのです。
真っ暗な道を歩いています。
やはりとても不安です。
よく見ると少し先の方に灯りがあるようです。
その灯りを頼りに、何とか道を進み近づいていくと、赤々と火のついたロウソクを持っている人に出会いました。
その人は、自分のロウソクで明るくなった道を迷うことなく歩いていきます。
その堂々とした姿に、思わず後からついて行きたくなってしまいました。
その灯りのなかにいると、自分も迷うことなく歩いて行けそうな気がするのです。
しばらく一緒に歩いていましたが、どうもロウソクを持った人がいくところは、自分が本当に行きたいところではないような気がします。
そう思っているうちに、その人はどこかへ行ってしまいました。
気がつくと真っ暗闇のなかです。
また不安になって、他の灯りを探してみます。
それから、何人かの火のついたロウソクを持った人についていきましたが、どうも何か違うような気がして、別の人を探すということを繰り返します。
そのうちに、とうとう自分がどこへ行けばいいのかわからなくなってしまいました。
どこか、行きたいところがあったはずなのに、どうしても思いだせないのです。
何だか悲しくなって、涙がでてきます。
「どうしたのですか?」
それを見た人が声をかけてくれました。
その人も、とても明るく燃えているロウソクを持っています。
事情を話すと、その人はあきれたように言います。
「あなただって、ちゃんとロウソクを持っているではないですか」
そうです。
今まで気がつかなかったのですが、ちゃんと自分の手のなかに大きなロウソクがあったのです。
「ほら、私が灯をつけてあげますよ。
他の人から、灯をつけてもらっても、ついていく必要はないのです。
それよりも、その灯りで誰かのではない自分の道を歩いていきなさい」
確かに、自分のロウソクがあれば、心から安心して前に進んでいくことができます。
今度は、迷うことなく自分の行きたいところへ向かって進み、本当に欲しいものがみつかりそうな気がします。
もう他の人の灯りを一生懸命探すこともないのです。
「辛」という字の上に、ひとつ小さな横棒の灯りをつけてみれば、「幸」に
なりますよね。
あちこち探してみても、なかなか見つからないはずです。