『阿含経』という経典に「筏のたとえ」という教えがあります。

「ある旅人が、大きな河にさしかかりました。
向こう岸へ渡ろうとするのですが、橋も渡し船もありません。
旅人は、いろいろ苦心したり試行錯誤して、ついに木の枝などを組み合わせて筏(いかだ)を作ることに成功します。
そして、何とか向こう岸にたどり着くことができたのです。

そこまではよかったのですが・・・

旅人は、
『こんな便利なものは、いつも持っている必要がある。この先、筏がないとまた苦労するすることになるだろう』と思い込み、それから陸を歩くときにもその筏を担いで旅をするようになったということです」

 
水に浮かべてこそ意味がある筏を、陸でも持ち歩くなんて、この旅人は何てバカなことをしてるんだろうと思うでしょう。
でも、同じようなことをしている人も多いのではないでしょうか。

昔は、こうだった・・・
以前は、このやりかたでうまくいったんだ。
 
などと、過去のことにこだわっている人は、ずっと今となっては役にも立たない筏を背負って歩いているようなものかも知れません。

また、過去の失敗にとらわれて、なかなか前に進めないという人も、肩に担いだ大きな筏が邪魔をしていることもあるようです。

よく考えてみると、過去にとらわれたり、こだわっているときには、今の自分に充実感が欠けていることが多いのではないでしょうか。
「今」を生きていないから、「過去」のことにしがみついてしまうようです。

もし「今」が充実しているのなら、余計なものまで担いでいる余裕もなく、目の前にあることに全力でぶつかっていることでしょう。

だったら、「今」を充実させるには、頭で考えているよりも、とにかく自分の目の前にあることに全力をつくすことなのではないでしょうか。

自分に与えられた仕事でもいいし、家庭の役割でもいいし、とにかく全力をあげてみるのです。
やりたいことがあれば、とにかくやってみる。
できるかどうかわからないときには、できると思ってやってみる。

それが、「今」を生きる気力を充実させ、毎日が活き活きと感じられる秘訣のようです。

「でも、私は何をやってもうまくいかなくて・・・」
もしそう思ってしまったとしたら、いつまでそんな筏を担ぐつもりですか?
 
「もし、失敗したらどうしよう・・・」
「今」歩いているのが陸の道なら、河に出会うかどうかわからないのに、筏を担いでいる必要はないですよね。

筏を手放して身軽になって、「今」この道を楽しみながら歩いて見ましょうよ。
それこそが、すばらしい未来につながる道なのですから。