昔、ある国の王さまの元へ、旅の商人から、一匹の金魚が献上されました。
王さまは、こんなに美しい生き物ははじめて見たので、たいそうおよろこびになられて、商人にたくさんの褒美を取らせたそうでした。
そして、ガラスでできた小さな水槽に金魚を入れ、近くに置かれていつまでもあきずに眺めておられました。
そんなある朝のこと、王さまがいつものように金魚のところへ行ってみると、
金魚は水面に浮いて、口をパクパクしています。
なにやら、とても苦しそうにしているのです。
王さまは、あわてて国中の有名な学者や医者をお呼びになり、金魚の手当をするように命じられました。
ところが集められた学者や医者は、頭を抱えてしまいました。
何しろ、この国には、いままで金魚など一匹もいなかったのです。
どうすれば金魚が元気になるかなど、誰にも分からなかったのです。
ある医者は、こんな提案をしました。
「金魚とて、生き物じゃ。いい薬をやれば、きっと元気になるじゃろう」
そこで、国中から貴重な薬草や高価な薬が集められ、それらがさらに調合されたものが、惜しみなく水槽の中に入れられました。
しかし、金魚は元気になるどころか、ますます苦しそうに口をパクパクするだけでした。
またある学者は、こう言いました。
「どんな弱っている者でも、美しい宝石や財宝に囲まれれば、かならず元気を取りもどすだろう。きっと金魚も同じに違いない」
今度は、国中の宝石や貴金属がたくさん集められ、水槽のまわりに並べられました。
もちろん、金魚は、そんなものには目もくれず、あいかわらず弱ったままです。
困り果てた学者たちの中には、とうとうこんなことを言い出す者も現れました。
「大きな家に、輝く名誉。それを手にしてよい気分にならぬ者はいない!」
金魚のために、大急ぎで立派な宮殿が建てられました。
金魚は大臣に命じられ、王さまより勲章を賜れることとなりました。
そして、金魚が水槽から出され、大臣の椅子に乗せられた時です。
金魚を献上した商人が、たまたま通りかかり、あわてて金魚を水槽の中に戻しました。
「何ということをしているのです。これでは、金魚は死んでしまいますよ」
商人は、水槽の水をきれいに換えてやり、水草を入れたり金魚のよろこぶ食べものを与えました。
すると金魚は、たちまち元気を取り戻し、うれしそうに泳ぎはじめたのです。
ポカンとしている学者や医者たちに向かって、商人はこう言いました。
「そうですよ。金魚のためには、名誉も財宝もいりません。ただ金魚がよろこぶことをしてあげればいいのです」
そう...
あなたのこころとからだが、本当によろこぶことは何ですか?
そして、あなたのために、それをちゃんとやってあげていますか?