『絶対に、ミュージシャンになろう!』
そう心に決めた、ふたりの若者がいました。
いつかは、都会へ出て、アルバイトをしながらでも、音楽の練習を続けて、夢を叶えたいと思っていたのです。
本気で将来の進路を決めなければならない時期になって、彼らは、すでに夢を実現した、先輩のミュージシャンにアドバイスをもらおうと手紙を出しました。
しばらくして届いた返事には、
「毎日、好きなことをして生きていくことは、とても刺激的ですばらしいことだ。でも、音楽で成功で生計を立てるのは、そう簡単なことではない。苦しい時期が長く続くことを覚悟しなくてはならないだろう。それでも、必死でがんばれば、いつかは目標を達成できるはずだ。がんばれ!」
といったことが書かれていました。
ひとりは、
『好きなことができるのはステキだ。一生懸命努力すれば、必ずミュージシャンになれるんだ』
という、前向きのメッセージを受け取りました。
もうひとりは、
『やっぱり、音楽で身を立てるのは、難しいようだ。辛く苦しい日々が続くだろう。最後までがんばることができるだろうか?』
と不安を感じました。
次にふたりは、友人や知人たちの何人かに相談しました。
「人生は一度だけなんだから、若いうちに思い切って、好きなことにチャレンジした方がいい」
「ふたりとも才能があるんだから、絶対に成功するよ」
と、力強く励ましてくれる人もいたし、
「うまくいかなくて挫折したら、みっともないよ」
「才能があるといっても、きっともっとすごい連中も多くいるだろう。本当に大丈夫か?」
などと、心配してくれる者もいました。
先輩ミュージシャンの手紙から、前向きのメッセージを受け取った若者は、励ましのことばを聞くたびに、ミュージシャンを目指そうという夢が、ますます膨らんでいきます。
絶対に、ミュージシャンになれるのだという気持ちが湧いてくるのです。
もうひとりの若者は、心配してもらうたびに、どんどん不安が広がってきて、自分の夢や才能にも、少し疑いを感じるようになってしまいました。
それでも、ふたりは、とうとう本気で夢を追いかける決意をして、都会へ出ることを両親に告げました。
ふたりが予想していた通り、強く反対されました。
両親は、まったく話も聞いてくれないのです。
ここまでは、ふたりとも同じでしたが、差が出たのは、そこからです。
ひとりの若者は、何度も両親と話し合い、ときには大ゲンカをしながら、何度も自分の気持ちを伝えたのです。
もちろん、その間も、音楽の練習に精を出しましたし、それだけでなく、家業の手伝いなども、熱心に励みました。
ところが、もうひとりの若者は、両親に反対されると、すっかりあきらめてしまって、もう音楽の練習をする気にもなりませんでした。
数年後...
はじめの若者は、何とか両親を説得することに成功し、都会での下積み生活の結果、念願のミュージシャンとしてデビューすることができました。
まだ、それほど有名ではありませんが、ライブハウスなどで地道に活動を続けながら、さらなる飛躍を目指しています。
彼は、いつも思います。
『あのとき、みんなが自分を励ましてくれたから、今の自分があるんだ』
もうひとりの若者は、別の仕事に就き、音楽は、ときどき思い出したように楽器を手に取る程度です。
彼は、今の生活に大きな不満があるわけではないのですが、深夜のラジオ番組などで、昔の音楽仲間の曲を耳にしたときには、少し胸が痛くなります。
そんなときには、こんな気持ちが湧いてくるのを抑えることができません。
『あのとき、まわりのみんなが反対したり、脅かしたりしなかったら、今頃は、俺だって、夢を叶えて歌っているはずなのに...』
本当の問題は、まわりの人たちや環境などではないのですね。
どれだけ自分を信頼できるか、そして、どれだけ自分のやりたいことに素直になるかが大切なのでしょう。
...夢を描けるのなら、それを叶える力は、必ずあなたのなかにあるのですから。