サン=テグジュペリの『星の王子さま』に、小さな星に住んでいる呑み助の話が出てきます。

呑み助は、酒瓶をずらりと並べて、黙ったままずっと飲み続けています。

「どうしてお酒なんか飲んでいるの?」と王子さまが尋ねると、呑み助は、今にも泣き出しそうになりながら、「忘れたいからさ」と答えます。

王子さまは、気の毒に思って「何を忘れたいの?」と聞いてみます。

「恥ずかしいのを忘れたいのさ」と、呑み助は言います。

「恥ずかしいって、何が?」王子さまは、呑み助を少しでも励ますことはできないかと尋ねてみました。
 
すると、呑み助は、こう答えたのでした。

「酒を飲むことが、恥ずかしいんだよ!」

これには、王子さまも、すっかりあきれてしまって、すぐにその星を立ち去ってしまったのでした。

...この呑み助は、きっと宇宙のどこかの星で、今でも酒を飲み続けているのでしょう。
だって、彼には、飲むだけの正当な理由があるのですから。
 
『飲むことの恥ずかしさを忘れたい』
そう思って、また今日も飲んでいるはずです。

酒を飲むことがそんなに恥ずかしいとしたら、ひょっとしたら、呑み助も、その恥ずかしさから逃れるための最良の方法は、酒を飲まないことだと、薄々気がついているのかも知れません。

酒さえ飲まなければ、恥ずかしがることもなく、もっと溌剌とした人生が送れるはずだと知ってはいるのでしょう。

でも、それは、ちょっと大変で辛いことだと思えます。
それよりも、もっと楽な方法があります。

それは、酒を飲まずにいることは「できない」と思い込むことです。
 
そうすれば、酒を飲まないという選択は、はじめからないのですから、
呑み助にできることといえば、酒を飲み続けて、恥ずかしいことを忘れることだけです。

だから、呑み助にとって、
「酒を飲むのが恥ずかしい」
と思えば思うほど、酒を飲む必要があるということになってしまうのです。

呑み助は、本当は、酒をやめることが「できない」のではなく、「やらなくてもいい」ための理由を見つけていたのですよね。

まったくバカげていますよね。

...と、人事のように思っている人も多いでしょうが、似たようなことをしている人も案外多いのではないでしょうか。

お酒を飲むことだけではなく、何かを「できない」と信じ込むと、はじめからもう、それをやってみるという選択肢が見えなくなってしまうのです。

「私には、そんなことをするのは無理だ」
「とてもじゃないが、私にはそんな才能はない」
「今の自分を変えることなんてできない」
「もっと楽しく生きるなんて、できるわけがない」
「夢を叶えるなんてできない!」

もし、そう思っているのでしたら、確かに、その通りになるでしょう。

人は、「できないと」思っている限り、「やらなくてもいい」方法はいくらでも見つかりますが、「できる」ための方法は、見えなくなってしまいます。

何かをやり遂げること
望むものを手に入れること

そのために必要なものは、まず、自分が「できる」と信じることです。
...というより、それ以外は、何もいりません。

「できる」と信じれば、前に向かって進んでいくエネルギーは、いくらでも湧いてくるのですから。

そして、私たちは、できることしか、本当にやってみたいとは思わないはずですから。